授業⑪『命』って、なに?

<前回のおさらい>

前回は、イタリア料理店「trattorìa GIFT」のシェフ、川上さんを取材しました。

川上さんに仕事のやりがいを質問して、川上さんの「おいしい」料理作りに情熱を注いでいる点を明らかにしたり、今まで培ってきた「質問づくり」のスキルを最大限に生かし、内容を深掘りする「質問重ね」を通じて、川上さんの「食」へのこだわりや、お店に対する思いの部分を引き出していました。

また、授業の回を増すごとに、生徒たちの質問がうまくなっていることも発見できました。

特に探求テーマに関する質問では、ゲスト自身ががハッとさせられるような、答えづらい質問や、気づきのある質問が出てくることも。

しっかり取材の準備をすることで、取材内容が濃くなっているからこそ、探求テーマもより深く、考えさせられるものになっているのではないでしょうか。
とにかく、取材中は生徒たちも、ゲスト自身も、楽しく充実した時間を過ごせています。

生徒たちには、普段の授業や日常生活でも、物事に対する入念な準備が、その物事を充実させるという「気づき」を、この取材への取り組みの中で感じていってほしいと願うところです。

次回のゲストは、助産師の羽鳥さん!

さて、次回の取材に向けての準備に取り掛かります。

ゲストとして発表されたのは、助産院「ハッピーマンマ」の羽鳥恵美さん。


羽鳥さんは、いすみ地域には数少ない助産師さんで、出張専門で母乳育児相談を行っている助産師です。お母さんや赤ちゃんに寄り添い、「命」をはぐくむサポートをしています。

さっそく、助産師という仕事や羽鳥さんについて、疑問に思ったことを書き出していきます。

「自然分娩?マタニティー?帝王切開?」

助産師にまつわるわからない用語が多々あるようで、付箋に書き出していました。

そして、定番の「収入いくら?」。
毎回ゲストに聞くと、比較できるのでいいかもしれません。

命ってなんだろう?

赤ちゃんやお母さんの「命」を扱う、助産師の仕事。続いては、それに関連して、「命」に係わる探求テーマについて考えていきます。

「生きものと、そうでないものの違いってなに?」

という問いが講師の磯木さんから提示されると、

「息している、脳みそがある、感情がある=生きもの」

と班の中での話し合いのなかで考える生徒がいました。
すると同じ班の生徒が、

「じゃあ花は?脳みそとか感情ないけど、生きものじゃない?」

と反論。

「生きもの」と「そうでないもの」の線引きをどこでするのか。なかなか難しいです。

別の生徒は

「生きものは『死ぬ』けど、そうでないものは『壊れる』」

と発言。

・・・そうでないもの=「機械」と捉えての発言でしょうか。そういう考え方もあるのか・・・中学生の「観点」には、大人をハッとさせるものがあります。

動物と植物の命の違い

続いて磯木さんから提示された問いは、「動物と植物の命の違いとは?」でした。

班で話し合う生徒から聞こえてきた意見はこちら。

「植物は光合成する、でも動物は自分でエネルギーをつくれない」
「植物は動かない」
「植物は葉緑体がある」
「植物は再生する」

ん?でも動物も太陽を浴びてビタミンD生成するし、食虫植物のように動く植物もいるし、肝臓は再生するから動物も再生する・・・「葉緑体」は確かに植物細胞だけにあって動物細胞にはない(中学生、よく知っているな・・・)から、動物と植物の命の違いなのかもしれません。

地球以外にも命はある?


続いて生徒に投げかけられたのは、「地球以外にも命はある?」という問い。

すると生徒からはこんな発言も。

「宇宙飛行士は宇宙にいるから、地球以外にも命はある」

・・・なるほど!そういう考えがあったか!と思わず納得してしまいました。

「テレビで宇宙人が写っている映像を観たことがある」

・・・だから宇宙人がいると。つまり、地球以外にも命があるという考え。
そうかもしれない、でも「ウソ」の映像の可能性は?信じるか信じないかはあなた次第、という感じですね。
謎が深まるテーマに、議論が過熱していました。

今度は、生徒自身で「命」に係わる探求テーマを考えます。

「命の形はハート?」

心臓はハートの形で表されることが多いから、確かに疑問に思うかもしれません。

「あの世って?この世って?」
「死ぬって?」

死んだらどうなるのだろう・・・この世に生きている人間は、「生きている」上では体験し得ない「死後の世界=あの世」。確かに気になります。

「あの世」は「想像」でしかないので、人によって考え方が違うのも、探求テーマとしては面白いです。


「命って平等?命の平等はだれが決めている?」

人間は殺してはいけない、というのは法律があるけれど、「肉」として食べるために、鶏や豚や牛は殺される。でも、鶏や豚や牛にも「命」はある。

これは、「人間の命」は尊いけれど、「鶏豚牛の命」は尊くないってこと?これって命の「平等」と言えるのか?そしてその「平等」「平等でない」は誰が決めている?

これは、中学生だけでなく、大人もみんな考えるべきテーマである気がします。

取材班と探求班を決めるプレゼン

今までは、取材班と探求班は「じゃんけん」で決めていましたが、今回は違います!
「立候補した班の質問を聞いて、おもしろい班に投票する」というやり方。

そうすれば、「じゃんけん」みたいに「運だめし」ではなく、本当に取材班に、探求班になりたい!と思っている班が選ばれやすい方法と言えます。

立候補した班が考えた、羽鳥さんへの質問は例えば、

「ドラマを観て「これは現実と違うなー」と思ったことは?」

テレビドラマではよく、出産のシーンが取り上げられることがあります。実際に出産に立ち会っている助産師さんは、テレビドラマのシーンを見てどう思っているのか。気になるところです。

「生まれた時のことを覚えている?どうして覚えていられる?」

自分がお母さんのおなかの中にいた時のことや、生まれた瞬間を覚えている人がたまにいるそうです(僕は知らなかった)。でも大半の人が覚えていないはず。その違いとはいったい何なのか、気になるところです。

「母と子の命がどちらかしか助からない時、どちらを選ぶのか?」

これは究極の選択。実際選べと言われても選べないこの選択、助産師さんはどのような選択を下すのか、気になります。

上の質問を考えた班は、多くの生徒から共感を得て、晴れて取材班と探求班に選ばれました。


このように、班で考えた質問を他の班に共有できて、質問を吟味できて、ゲストにぜひとも質問したい内容が選ばれる決め方のほうが、いい質問が埋没することがなく、やる気のある班がちゃんと選出されていいですね!

羽鳥さんへの取材本番が今から待ち遠しいです!
次回もお楽しみに!

テキスト:椎葉康祐

授業⑩イタリアンのシェフにインタビュー!

<前回のおさらい>

前回は、今回取材する、イタリア料理店trattorìa GIFTのシェフ、川上さんについての質問づくりでした。それに関連して、「食」に関する問いについて考えました。

「ごはんを食べるとなぜうれしいの?」
「なぜ、国ごとに作られてきた料理がちがうの?」
「おいしい料理と体にいい料理はちがう?同じ?」

生徒各々が、「人がごはんを食べることって、どういうことだろう?」と、「食」について深く考える機会になりました。

「おいしいって何?」

さて、今回はイタリア料理シェフの川上さんへの取材当日!
取材班は質問内容の確認。緊張感が漂っています。

探求班は、川上さんの携わる「食」の分野における探求テーマを考えていきます。
例えば、

「おいしいって何?」
「なぜ人は食べ物を食べるのか?」

といったテーマが出ていました。

探求班以外の班は、川上さんへの質問を3つに絞っていきます。

ある班は、取材班に対して、「この質問をしてね!」とリクエスト。

取材班になりたかったけど、前回の授業でジャンケンに敗れてしまった班…よっぽど取材したかったのでしょう。取材班が背負う、他の班からの期待感と、他の班を代表して取材するという責任感。

でもこれって、授業に対して、取材に対して生徒達全員が真剣に向きあっているからこそ生まれるもの。生徒達の真面目さと成長度合いには頭が下がります。

イタリア料理シェフ・川上さんへの取材スタート!

取材班のみんなはイタリアに興味があって、イタリア料理のことを聞けるのが楽しみ!

「なぜイタリア料理に興味を?」

川上さんは、もともとサッカーをやっていました。ヨーロッパはサッカーが盛んで、イタリアも強豪国の一つ。

そして、川上さんの好物はピザとパスタ!おいしいピザとパスタを自分でつくりたい!という思いから、イタリアンシェフを目指したのだとか。

川上さんとイタリアンシェフをつないだのは、サッカーと、ピザ・パスタでした。

みんなお馴染みの「trattorìa=食堂」をつくりたい

「店名の「trattorìa GIFT」のトラットリアとはどういう意味?」

trattorìaとは、イタリア語で「食堂」の意味。一方、「レストラン」はイタリア語でristoranteと言います。

店名にristoranteではなく、あえてtrattorìaを用いたのは、気取らず、みんなの馴染みのある「食堂」を作りたいという思いから。川上さんのお店を、たくさんの方々に親しんで欲しいという思いが伝わってきました。

「おいしい」を追求する「楽しさ」

川上さんの仕事のやりがいは、何より、お客さんに「おいしい」と言って食べてくれること。

「おいしい」と言ってもらえるように、焼き加減などの調理法を工夫したり、食材の組み合わせを考えたり、入念に食材の下準備をしたり…

もちろん、ソースやドレッシング、デザートも全て「手づくり」。食材は、なるべく地元いすみの新鮮でおいしいものにこだわります。

「なぜいすみに店を開いたか」という質問の答えは、「食材の良さ」でした。

良い食材を生産する、農家さんや漁師の方々がそばにいて、どのような思いで、どのように作られているのかが目の前で「見える」というのもいすみの魅力。

川上さんの「料理」へのこだわりと、いすみの豊かな「食材」が、「おいしい料理」を作り出すのですね!

答えに困る「食」にまつわる質問?

「なぜ、食べ物の好き嫌いがあると思いますか?」

…この答え、パッと浮かびますか?僕はパッと答えが浮かびませんでした。
探究班の質問はすごく良く考えられていて、大人がハッとさせられるものばかりです。

川上さんの答えはこうでした。

「自分自身に食べ物の好き嫌いが無かったので、何で好き嫌いがあるのかよくわからないけど、好き嫌いは「作り手」の工夫で乗り越えられる」

作り手の「工夫」次第で嫌いな食べ物も好きになれる。シェフらしい答えです。

また、川上さんは「食べる環境によっても味が変わるから、いい環境で食事をすることが大事」とおっしゃっていました。

確かに、職場のデスクで一人寂しく食べるおにぎりより、山の頂上でみんなと食べるおにぎりのほうがおいしく感じますよね!

「深掘り」を意識した質問ができている

この取材中、質問内容に着目すると、あることに気づきました。

例えば、「サッカーをやっていた」という話を受けて、
「サッカーが料理に生かせたことはありますか?」と質問。

また、

「いつからシェフを志しましたか?」
(答えは「25歳から。まず、焼き鳥屋を始めた。」)
「焼き鳥屋さんだったのにいきなりイタリア料理屋さんに転身して大丈夫だったのですか?ジャンルが全然違うと思うのですが…」

という深掘り。

「料理中怪我をされたことがありますか」
(答えは「あります」)
「では、その怪我はどれくらいで治りましたか?」

という質問重ね。

以前の取材では、質問が単発で「一問一答形式」になっていたのですが、今回は質問に質問を重ねる、ある質問の答えに対して、さらに答えの内容を深掘りする、といった、「深掘り」する質問がたくさんありました。

これは、授業の中で「質問づくり」を繰り返すことで磨かれた部分だと思います。
本当に、生徒たちの「成長」に驚くばかりです。

今回の取材では、
今まで培ってきた「質問づくり」のスキルを最大限に生かし、内容を深掘りする「質問重ね」を通じて、川上さんの「食」へのこだわりや、「お店」に対する思いの部分を引き出していました。

今日も内容がとても充実していて、生徒達一人一人も、レポートしている自分自身も、とても楽しい時間になりました!

次回もお楽しみに!

テキスト:椎葉康祐

授業⑨『食べる』って、なに?

<前回のおさらい>

前回は、吉田外科内科医院の吉田さんを取材しました!生徒のインタビューでは、医療の現場における「リアル」(過酷な労働環境や、資金のやりくりなど)に迫ることができました。

「病院は潰れないのか」という思い切った質問など、質問一つ一つが確信をついていて、生徒達の「質問能力」も、回を増してぐんぐん成長しています。

次回のゲストはイタリアンレストランのシェフ!

さて、本日も、次回のインタビューの準備に取り掛かります!

次回のゲストは、いすみ市でイタリアンレストランtrattorìa GIFTを営む、シェフの川上豊さん。川上さんのプロフィールが書かれた紙を参照しながら、質問を作っていきます。

とある生徒達のふせんを見ると、あることに気がつきました。ふせんの下にまたふせんを貼り、さらにまたふせんを貼り…。

内容を見てみると、

なぜ「いすみ」でお店を出したのか?
なぜ「イタリアン」を選んだのか?
オススメの料理は?

理由を聞いてみると「質問する順番を意識してふせんを貼っています。」と、生徒達が自分達で考えて、質問の「階層」を作っていました。質問に質問を重ねる、「深掘り」を意識した質問づくりができている証拠です。

授業の回数を増すごとに、「質問づくり」にも変化が現れています。

「食べること」にまつわる問いを考える

次に、川上さんがシェフとして関わっている「食」「食べること」にまつわる「探求」テーマについて考えます。

まず講師の磯木さんから最初に提示された、「ごはんを食べるとなぜうれしいの?」という問いに関して。

「『生きてるぅー』という感じがするから」
「おいしいから」
「エネルギーを摂取したから」

生きている実感、「おいしい」という喜び、活力がみなぎる感じ…自分自身の「感覚」に基づいて、それぞれ答えを出していました。

次に提示されたのは、「なぜ、国ごとに作られてきた料理がちがうの?」という問い。

「文化がちがうから」
「気候がちがうから」
「(気候が違うと)育つ植物がちがうから」
「(気候が違うと)獲れるものがちがうから」

国ごとの文化と生活環境の違いが、料理に違いを生んでいるのではないか?という考えを出している班が多数ありました。

そして最後に提示されたのは、「おいしい料理と体にいい料理はちがう?同じ?」という問い。

ある班でこのような議論が。

「おいしいっていうのは、体にいいってことだよ!」
「違うよ!」
「そうだよ!」
「じゃあハンバーグは?おいしいけどそればっかり食べてると体に悪いでしょ?」
「結局バランスが大事だよね。」

また、ある班はこんなことを言ってました。

「青汁とか、スムージーは体に良さそうだよね。でもアレおいしい?」
「砂糖とか甘いものが入るとおいしくなるよね。けど身体に悪くなる。」
「砂糖が入ってないとか、『無添加』は体にいいってことじゃない?」

議論を聞いていて、クスッと笑える。でもそれぞれ真剣に考えていて、グッとくる。そのような印象を持ちました。

人がごはんを食べることって、どういうことだろう?

続いて、「食べること」にまつわる探求テーマを、自分達で考えます。

「なぜ3食食べるのか」
「どうして食べると体に栄養がいくのか」
「なぜ味があるのか」

はい。これらは何となく誰もが感じている疑問です。

一方、

「なぜ食べ物に『無』があるのか」

…これはどういう意味?

「ガムとか最後の方は味が『無い』ですよね。だからそれが疑問に思って…」

なるほど。なぜ味が『無くなる』のか、という意味でした。

あと、こんな問いも。

「『おいしくなーれ』でごはんはおいしくなる?」

魔法かけるみたいにね。おまじない。確かに気になります。

「食べ物」というのは、人間にとって切り離せない共通の話題というのもあって、話が広がり、探求テーマも考えやすかったようです!

取材に対する意気込み、やる気の気迫!


さて、取材のまえの授業で恒例の、取材班と探求班を決める挙手!取材班も、今回は「食」について探求する探究班も希望が多い!


白熱するジャンケン大会。ジャンケンの勝者は喜びを爆発させています!敗者は、悲しみに暮れています…

これも、取材に対する思い入れ、意気込み、やる気の高さがあるからこそのリアクション。生徒達の「気迫」に、こちらも圧倒されます。

さて、次回はいよいよイタリアンシェフの川上さんへの取材本番!お楽しみに!

テキスト:椎葉康祐

授業⑧病院の事務長さんにインタビュー!

今日は2回目のインタビュー!

一度インタビューを経験したことで、目を見張る成長を見せた生徒たち。

今回の授業では、まず、今日行われる2回目のインタビュー(吉田外科内科の吉田淳さん)を前に、前回出た質問や探求テーマを整理します。

班ごと、与えられた時間の中で前回の質問内容をテキパキと整理していきます。少し慣れてきた様子も伺えました。
今回の探究班は4つの班。「まだテーマ決めてない〜。」と言いながらも、付箋にどんどん書き出していきます。

取材班は前回の授業中に決めたものから、質問の順番を入れ変えてきました。「収入はいくらですか?」の質問は後半に移動していました(笑)。
取材に決まった班が今回立候補した理由は「吉田外科内科に通院で行ったこともあり、地域でお世話になっているのでその歴史などを知りたいと思ったから」とのこと。

各探究班も、
「事務長として大切にしていること」
「吉田外科内科では何人働いているのか」
「吉田外科内科をなぜ継ごうと思ったのか」

などの質問を用意していました。

臨機応変&積極的に質問!

さあ、いよいよ吉田さんの入場。
前回のはじめてのインタビュー時よりも少しリラックス感があったかな?

取材班は11個の質問を終了したところで思ったよりも時間が早く、少し戸惑いを見せたようでしたが、その後すぐほかに用意していた質問プラスαを吉田さんに問いかけたり、吉田さんが答えたものに対する質問をするなど、臨機応変に対応できていました(吉田さんの答えに対する新たな問いを重ねられたところに大きな成長を感じました)。

最終的に、取材班から出た質問はトータルで30!
チャイムが鳴り、休憩を挟んでから17個も質問が出たことには驚きました。

地域医療は奥深い

取材班だけでなく、探究班やその他の班からも積極的に質問が出ました。
テーマが身近な「医療」ということも生徒たちの興味をより引いたこともありますが、回を重ねるごとに「自分たちが何をして、どこを目指しているのか」ということが彼らの中でよりクリアになってきている感があります。

地方の医療人材不足の問題、吉田外科内科の最終的な目標、後継問題、入院を閉めた理由、病気にならない方法、さらに深く医療のよさを問うたりと、私たち大人にも興味深い質問、興味深い答えがたくさんありました。

インタビューでは、医療の現場における「リアル」(過酷な労働環境や、資金のやりくりなど)にも迫ることができました。「病院は潰れないのか」という思い切った質問など、質問一つ一つが確信をついていて、生徒達の「質問能力」も、回を増してぐんぐん成長しています。

「病院の理想は、病院がなくなること。」

吉田さんが思い描く「理想」の社会は、みんなが健康で生き生きと暮らすことができれば病院はいらなくなるということ。

取材を通じて、吉田さんも自分の「仕事」に向き合うことができ、吉田さん自身にも「気づき」があったとのお話も授業のあとで頂きました。それは、取材を通して学んでいるのは、生徒達だけでなく、取材されるゲストの方もだということを表しているコメントでした。

これらをどう探究してどうアウトプットするのか、生徒たちが練り上げていく様子も楽しみです。

テキスト:田中藍子,椎葉康祐

授業⑦『医療』って、なに?

〈前回のおさらい〉

前回は、初めての取材に挑戦しました。いすみライフスタイル研究所でいすみの活性化など地域活動に取り組んでいる奥村さんを取材し、「まちづくり」の仕事について理解を深める時間となりました。

取材の内容については、「まちづくりとはどのような仕事なのか」「仕事をして楽しいことはどのようなところか」「大変だった仕事は何か」など、奥村さんの仕事内容について知るための質問ができていたと思いますが、単発の質問とその応答の繰り返しになっていました。

「一つの質問についてさらに深堀りして質問を重ねる」ということができると、より良くなりそうです。

次回インタビュー(「吉田外科内科」の事務長さん)に向けて、準備開始!


授業では、前回のインタビューをまず振り返ったあと、早速次回の取材に向けての準備に取り掛かりました。
次回取材するゲストは、「吉田外科内科」で事務長をしている吉田淳さん。

吉田さんのプロフィールが書かれているプリントを見る生徒達。真剣なまなざしでプリントを読み込みます。
吉田外科内科は、いすみ市の地域医療を支えているまちのお医者さん。健康で長生きできるまちづくりに貢献しています。「医療」は生徒達にとっても身近な話題で、皆興味津々です!

吉田さんへの質問を考える

「吉田さんは『吉田外科内科』で事務長をしています」という事実に対して、具体的な質問を考えていきます。

岬中学校のI先生と、いラ研の奥村さん、そして今回と、この類の質問づくりは3回目。そういうこともあってか、生徒達は付箋にどんどん質問を書いていきました。「付箋が足りなくなりました!ください!」という班もたくさんあって、「どうしたんだ、この勢いは・・・」と僕もびっくり。

回を重ねて、慣れてきたのか、質問をたくさん考えられるようになっているし、質問内容も充実・・・。前回の授業で一度取材を経験したことで、要領をつかんだのかも知れません。

また、前回の取材が思った以上に楽しかったのかも知れません。生徒達の「急成長」を目の当たりにすると、見ているこちらもワクワクします!

住んでいる街から病院がなくなったらどうなる?


今度は、吉田さんが携わっている「医療」について探求していきます。

まず、講師の磯木さんから生徒に投げかけられたのはこの問い。

「住んでいる街から病院がなくなったらどうなる?」

ここでポイントなのは、「どうする」ではなく、「どうなる」だということ。

例えば、「病院がないなら、病院がある街へ引っ越す」というのは、「病院がなくなったら『どうする』」という質問の答え。「どうなる」の答えではないということです。

生徒たちは、この微妙な言葉のニュアンスの違いにも気づいていて、「『どうする』じゃなくて『どうなる』だよ!」と自ら声を上げていたグループもありました。このような、「質問自体への理解度」が増しているところにも、生徒達の成長を実感します。

なんで薬で病気が治るの?

続いて生徒に投げかけられたのはこの問い。

「なんで薬で病気が治るの?」

すると、「粉薬はまずいけど、錠剤なら飲める」とか、薬のおいしい、まずいの話をしているグループがあってクスッと笑えました。

「治らない病気もあるよね」「うちのじいちゃんは薬飲んでたけど病気が良くならなかった」とか、質問自体に疑問符を投げかけるグループも。とにかく、本当に質問について良く考えていると、生徒達の真剣さと成長ぶりに感心します。

なぜ人や生き物は子どもから大人になって老人になるの?

次の問いは、

「なぜ人や生き物は子供から大人になって老人になるの?」

「時間がたつとだんだん細胞が衰えるから」と、人体の構造に触れているグループや、「時が流れるから」と詩人的な答えを出しているグループがありました。「老人になりたくない!」と、質問自体を否定したい思いがあふれ出ていたグループも。子供らしいといえば、子供らしい。

さらに探求してみたい「医療」についてのテーマ


今までの3つの問い以外にも、さらに探求してみたい「医療」についての問いを、今度は生徒たちが自ら考えていきます。

「長生きとは得なのか?」
「ずっと子供でいるためにはどうすればいい?」
「健康で長生きできる社会とはどのようにしたらできるのか?」

まず、長生きしたいかとある生徒に質問してみたら、「したいです!でも大人になりたくないです!」と。「いや、大人にはなりたいけど20歳くらいで止まっていたい」という子も。

人間誰もが年老いていく。体が衰えていく。それは理解しつつも、いつまでも子供で、子供とまではいかなくても若者のままでいたいという気持ちが、生徒達の考える質問の数々から垣間見れました。

大盛り上がりの取材班決め


次回、吉田さんの取材を担当する「取材班」を決める時には、「ハイ!ハイ!」うちのと、班にやらせてくれ!と挙手で猛アピール。結局じゃんけんで決めることになったのですが、そのじゃんけん大会が大盛り上がり!

「なんか今日の生徒達、すごくなかった???」

授業が終わったあと、授業にかかわるメンバーがみんな口をそろえて言いました。

質問づくりの真剣さ、質問内容の深さ、授業に対する積極性、取材することに対する意欲の高さには、本当に目を見張るものがあります。

ますます、「房総すごい人図鑑」づくりは盛り上がりを見せています。次回の取材が楽しみでしょうがない!そんな回でした。

テキスト:椎葉康祐

授業⑥まちづくりNPOの活動をインタビュー!

〈前回のおさらい〉

前回の授業では、いすみ市のまちづくりNPOいすみライフスタイル研究所(通称、いラ研)の奥村さんのインタビューに向けての質問づくりをしました。


また、奥村さんの取り組んでいる「地域活動」から派生して「まちづくりとは?」という問いについて考えました。

生徒達にとっては「まちづくり」という概念自体の理解が難しかったようで苦労していたものの、実際に取材する方に対する質問づくりに熱心に取り組んでいました。

いよいよゲストへのインタビューを敢行!

今回の授業では、とうとう取材本番!1人目のゲストである、NPOいすみライフスタイル研究所の奥村さんに直接質問を投げかけていきます。

取材班は、本番直前まで質問内容を何度も確認していました。一問一答ではなく、一つの質問に対してさらに深掘りする形で質問を重ねることがポイントです!

奥村さんが登場すると、一気に緊張感が走ります。

私たちは、奥村さんが取り組んでいる『地域活動』に興味があるので、質問を考えました。

奥村さんに取材の意図を伝えたら、早速一つ目の質問です。

なんでアイドルを目指していたのですか?

これは、奥村さんのプロフィールに書かれていたもので、奥村さんの「若い頃アイドルを目指していた」という記述が、生徒達にとってどうしても気になっていたのでしょう。

ちなみに、奥村さんの答えは、

周りにかっこいいとかかわいい言われて勘違いして、アイドルのオーディションを受けたら受かってしまい、さらに勘違い。とにかく、モテたい。キャーキャー言われたい。その一心でアイドル目指していました。

奥村さんの明るい人柄、目立ちたがりな?パーソナリティがわかる質問で、結果的には良いアイスブレイクになりました。

次の質問。

NPOの活動は楽しいですか?

まさに奥村さんの「地域活動」の仕事そのものに関わる質問!

奥村さんはこのように答えました。

東大、早大など名の知れた一流大学生の研修受け入れや、国際協力機構(JICA)の海外研修受け入れ(東ティモール、フィリピンなどからの留学生)を行っているなど、様々な出会いがあったりやつながりができたりしてとても刺激になっている。
驚いたのは、『いすみは田舎ではない』という東ティモールの留学生の発言。東ティモールの田舎は水道もガスも電気も無いし、道路も舗装されていない。人によって「田舎」の捉え方は違うということを理解した。自分の知らない世界を知るきっかけとなり、視野が広がった。

いすみライフスタイル研究所にいたからできた人との「つながり」と、そこから広がった自分の「視野」。奥村さんが活動に携わって感じた良さが伺える問答でした。

話し合いを通じて、まちが一つになる

いすみライフスタイル研究所ではいつから活動していますか?

いラ研は、その前進の「まちづくり推進協議会」が活動のスタート。いすみ市はそもそも「夷隅町、岬町、大原町」の3町が合併してできました。

3町はそれぞれ風土も人柄も違うので、最初はなかなか相容れなかったそう。でも、お互いが歩み寄るために、話し合いの場が持たれました。その話し合いでは、まず、お互いの悪いところを言い合ったそうです。

「大原は祭りバカだな」
「岬は気取っている」
「夷隅は何も無い」

その後に、お互いのいいところを言い合う。

「大原の祭り、楽しくて好きだよ」
「岬ってオシャレだよね」
「夷隅って自然豊かだよね」

お互いのことのいいところも悪いところも理解し、認め合う。地域によって特徴・性質・人柄が異なるいすみ市は、このようにして一つになっていったそうです。これはいすみ市に限らず、相互理解の方法として様々な場面で役立つのではないでしょうか。

大変な仕事は何もない。いつも笑顔で楽しく

次の質問。

大変だった仕事は何ですか?

仕事自体に大変なことはないけれど、『容姿』で苦労した。「金髪」は一般的に見れば「不良」の代名詞。そのため、「金髪」という見た目で「この人は仕事に不真面目だ」と判断されてしまうこともあったから。

でも、奥村さんは仕事に対して真剣でまじめに向き合っていて、現に「いすみ活性化」のために一生懸命仕事をしています。「金髪だからと言って不真面目とは限らない。仕事とは無関係」というのが奥村さんのモットー。
だから、「金髪=不良」と思っている人と仕事をすることで、「不真面目」レッテルを貼られて苦労することが、強いて言うのであれば「大変な仕事」ということです。

加えて奥村さんは話します。

NPOでの活動は「ボランティア」。ボランティアというのは、心から「やりたい!」と思ってすることで、「お金」など対価を求めてやる仕事ではないし、「大変だな「苦労するな」といって、耐えながらやる仕事でもない。「ボランティアをするときは楽しい顔でする」というのが、自分の決め事。
だから、ボランティア活動であるNPOの活動で大変なことは無い。

奥村さんのお話を聞いていて、お金はもらえないけど、「いラ研」を積極的にやりたい!と思えるのは、やっていて楽しいからだとわかりました。だから、協力してくれる仲間も多いのかもしれません。
野菜ソムリエで理事長の高原さん、ウェブデザインや英語翻訳を担当、日本のみならず世界にいすみライフスタイル研究所の活動を発信している副理事長の江崎さんなど。ちなみにぼく椎葉も、いラ研の活動の協力者の一人です。

「厳しい道を選べ」-小学校の担任の一言に動かされた奥村さんの人生

続いては

学生時代の思い出は何ですか?

という質問。

奥村さんは、高校1年生の時に暴行沙汰で停学になってしまったそうで、その時に小学校の時の担任が奥村さんを突然訪ねてきて、いきなり「俺は手相が見れる。手を出してみろ」と言われたそう。奥村さんの手を見て、先生が言った一言。

「お前は20歳と40歳で人生の大きな分かれ道がある。そのとき、厳しい方を選べ」

そう言われても、奥村さんはピンとくるはずもなく・・・
しかしながら、本当に20歳と40歳近くで「人生の分かれ道」が訪れたそう。

21歳、アイドル目指して東京へ行ったもののうまくいかず、アルバイトを続ける毎日を送っていたところ、いすみの実家から「帰ってきて家業を継いで欲しい」という連絡が。
東京で働き続けるか、いすみに帰って家業を継ぐか・・・
奥村さんは「いすみに帰る」という選択肢を選びました。

奥村さんは東京で危ないことに巻き込まれるなど、道を踏み外すようなことをすることなく、いすみに帰って家業を継いで、地域活性化のための活動に取り組み、更生していきました。

40歳、再び人生の分かれ道が。
「廃線寸前の危機に陥っているいすみ鉄道に対して支援をしてくれないか」という相談があったそうです。
「仕事(家業)もあるし、いすみ鉄道の支援もするのは大変だな、でもどうしよう」と悩んでいたところ、あの言葉を思い出します。

「厳しい方を選べ」

大変かもしれないけれど、奥村さんはいすみ鉄道の支援に取り組むことに決めました。沿線にムーミンの像を作って展示し、それが車窓の名物になりました。いすみ鉄道の利用者は急増し、廃線の危機から脱出、観光客に人気のローカル路線となりました。

その後、「厳しい道を選べ」と奥村さんを導いてくれた恩師と偶然再会したそう。
そのとき驚愕の事実が・・・

「実は手相なんか見れないんだよね。でも大体20歳と40歳で『人生の分かれ道』が来るものなんだよ。そうだっただろ?」

「手相が見れる」のはうそだったけれど、恩師の一言で奥村さんの人生が「良い方」へ導かれたのは事実。奥村さんの「今」がこんなにも楽しく幸せなのは、その恩師のおかげと、心から感謝していました。感動的なお話でした。

いすみを「看板が無くてもわかる」有名な街に

これからやってみたいことは何ですか?

という質問。

いすみを日本で一番有名な街にしたい。道路上に「いすみ市」という看板が無くても、ここを訪れる人が「いすみ市に入ったな」とわかるようにしたい。自然のぬくもり、おいしい食、人の温かさに触れることで、いすみ市と認識できるようにしたいね。

加えて、奥村さんは生徒たちにこう言いました。

一度東京で暮らしてみたらいいよ。そうすればいかに「いすみ」がいいところかよくわかる。自分も実際、東京暮らしを経て「いすみ」の良さに気づき、結果的に戻ってきた。外から客観的に地元を見てみる大切さを、実体験として感じている。

奥村さんの考えは、いすみに若者をずっととどめるという考えは持っておらず、一度いすみを出て東京とか都会に暮らしてみるのが大事ということ。そうすると、いすみがいかに治安がいいか、土地が豊かか、ご飯がおいしいかがわかる。いすみの「良さ」に気づけると。

奥村さんの考えには僕も同感です。僕も中高を宮崎で過ごし、都会に行きたいと思って東京の大学を出て、東京で2年働きました。でも東京の人の多さ、ビルの多さ、自然の少なさに「窮屈さ」を感じて、学生時代過ごした宮崎のような「田舎」が恋しくなりました。
自然いっぱいで、食べ物はおいしく、空気は新鮮で、人が温かい。それは、「都会」と「田舎」の「比較」で気づけたことです。

「地域活動」のやりがいは、まちの魅力が伝わること

仕事のやりがいは何ですか?

という質問。

宝島社が出版している「田舎暮らしの本」の「住みたい田舎」ランキングで、いすみ市は1位を獲得したのですが、「ランキング1位になったのは、いラ研の活動があったからこそ」と出版社の方からお言葉をいただいたのがとてもうれしかった。
このように、活動を通じて「いすみ市」の魅力がいろいろな方面に伝わり、移住者が増えたりメディアに取り上げられたりするのが「やりがい」になっています。さらに、この授業を企画した磯木さんのようないすみへの「移住者」が、いすみのために活動してくれるのがうれしい。

今後もいラ研の地域活動が様々な人たちを巻き込んでいき、地域活性化につながる活動がさらに増えていくと、いすみがより元気になりそうです!

質問を「深める」のは難しい?

こうして無事に、奥村さんの取材は終了。生徒達もホッとした表情を浮かべていました。ただ、終始質問が「一問一答」になってしまった印象。

ある質問をして、その答え。それから質問の話題が変わり、その答え。また話題を変えた質問。答え…。一つの質問に対して、さらに深堀りするということはできず、一つ一つの質問がそれぞれ独立したものになっていました。

次回の取材では、「質問を重ねてテーマを深堀りする」ということがさらにできるといいと感じました。

とはいえ、初回の取材を無事終えることができて本当に良かったと思います。次回に向けた課題も明確になりました!

テキスト:椎葉康祐

授業⑤『まちづくり』って、なに?

〈前回のおさらい〉

前回の授業では、「テーマをより深く知る質問づくり」と題して、「Iさんは先生である」という事実に対する具体的な質問を考えていきました。
普段よく接している先生のはずなのに、今回の質問を通じて初めて知ることがあったり、先生の「思い」を理解するきっかけになったり…と、質問づくりが、生徒たちと先生がより深くつながる契機となりました。

「先生」とは?

今回の授業ではまず、「先生とは?」という「先生」という概念に対する質問を考えていきます。

・なぜ『先生』と言うのか?
・いつから『先生』(という存在)があるのか?
・そもそも『先生』は必要なのか?

班で出た、このような質問のなかで、面白い、深めてみたいと思うものをさらに深めていきます。

あるグループではこのような会話が行われていました。

A:「どうして先生が存在するの?」
B:「受験があるから」
A:「どうして受験がある?」
B:「なぜ受験があることを疑問に思うの?」
A:「受験がイヤだから・・・」

会話の内容云々は置いといて、「質問を深める」という観点では、授業を通じて生徒たちが独力でかなりできるようになっていると感じました。

このあと、スライドで3つの問いが提示されました。

実践インタビューに向けての質問づくり

次のトピックに移ります。
授業の内容は、「地域で働く人たちへの取材」に向けてさらに実践的なものになっていきます。
実際に取材する人への「質問づくり」を練習していきます。
生徒たちが次回取材するゲストは、NPOいすみライフスタイル研究所の奥村さん。

早速、生徒たちは奥村さんのプロフィールを見ながらどのような活動をされている方なのかを把握しています。

そしてお題は、「奥村さんはいラ研(いすみライフスタイル研究所)で地域活動をしている」という事実に対しての質問づくりです。

・なぜ地域活動を始めたのか?
・今までどのような地域活動を行ってきたのか?
・そもそも地域活動とは何なのか?

など、お題に即した質問をたくさん考えていたグループもあれば、「奥村さんはなぜアイドル活動をしていたのか?」など、奥村さんの略歴を見て考えた質問も見られました。

これは、「地域活動をしている」に対する質問にはならないですね…。表面的な所に引っ張られずに、今、何に対する質問を考えているのかを意識するのが大切なんですね。

質問をたくさん挙げたあとは、その中で深堀りできるテーマを考えていきます。

質問の取捨選択は、インタビュー相手(今回は奥村さん)のことを知ることができる範囲、深さが変わってきますし、相手の魅力をどのくらい引き出せるかも変わってくるので、重要な作業です。

『まちづくり』って何?

今回取材する奥村さんが取り組んでいる「まちづくり」に関して、その根本を問う質問について考えていきます。磯木さんから提示されたのはこの3つ。
■『まちづくり』って何だろう?
■そもそも『まちの衰退』って何だろう?
■みんながなにをしたら『住みやすくて生き生きした街』になる?

ある生徒が、住みやすい街の条件として、「wi-fiがあること」というのを挙げていました。現代っ子らしい回答だなという感想とともに、現代の生活において「インターネット環境」は無くてはならないインフラであることを改めて認識させられる一幕でした。

生徒たちからも、ユニークな発想が生まれていました。

次回の授業では、いよいよゲストを招いて実際に質問をしていきます!
奥村さんに対する「質問づくり」と、その質問を「深める」練習、そして「まちづくり」について考え合ったことを生かして、奥村さんの取り組んでいる仕事について理解し、考える機会になるはずです。

「インタビューしたい班は?」と問いかけると、一斉に手が挙がりました。次週が楽しみです。

テキスト:椎葉康祐

授業④そもそも学校って、必要?

〈前回のおさらい〉

前回の授業では、「それがどんな問いから作られたか」を考えました。渡されたお題(信号、窓、自転車の鍵、ティッシュ、時計など)に対して、それを「作っている」人(生産者)の立場で問いを考えることで、そのものの良さや存在する理由について深く考える機会になりました。

今回のテーマは、「テーマをより深く知る質問づくり」

今回の授業では、ある事実(テーマ)に対して具体的な質問をたくさん考えていきます。そのテーマについて深く知るための質問づくりを練習します。

今回、生徒たちが考えるテーマは、こちら。

「〇〇さんは先生です」という事実に対する具体的な質問を考える。

岬中学校のI先生にモデルになっていただき、「Iさんは先生です」という事実に対して具体的な質問を考えていきます。

例えば、「先生は何の教科の先生?」とか、「なぜ先生になったの?」といった質問を各班の一人ひとりが考えていきます。

たくさんの質問を考えるためのヒントのひとつは、5W1H×時系列(過去、現在、未来)で質問を考えること!「なぜ~?」という質問だけでも、「過去(~であった)」「現在(~である)」「未来(~つもりである)」と掛け合わせると、3つ質問をつくることができます!

このことを意識して、生徒たちはたくさんの質問をつくっていきます。

たくさん質問を考えたあとは、「深堀りできそうだな」と思う質問を絞っていく時間。そして、実際にI先生に質問をします。

「質問したい班は?」と呼びかけると、3つの班から手が挙がりました!

生徒:「先生のどういうところが楽しいですか?」
先生: 「みんなの成長が見られるところかな?あと、人に教えるのが好き。みんなから元気をもらえるのが楽しい」

「I先生はいつから先生なの?」
「なぜ先生になろうと思ったの?」
「先生の『やりがい』は何?」
「なぜI先生は国語の先生になりたかったの?」
「なぜI先生は国語が好きなの?」
「国語以外だったら何の先生になりたい?」

質問を通じて、I先生の「やりがい」、「大変なこと」、「なったきっかけ」を知る機会になり、また先生が生徒に対して「何を伝えていきたいのか」を理解するきっかけになりました。

一方で、
「I先生はどこに住んでいる?」
「I先生の初恋の相手は誰?」
など、「Iさんは先生です」という事実に対する質問ではなく、ただ、I先生のプライベートに関する質問をする班も。

確かにI先生のプライベートも気になるかもしれないけど、ここでは「『Iさんは先生です』に対する質問を考える」というお題があるので、そのお題を意識した質問づくりが必要ですね。

普段よく接している先生のはずなのに、今回の授業で初めて知ったことがあったり、先生の意外な一面が明らかになったり、先生の想いに心が動かされたり・・・

「質問づくり」は単なる作業ではなく、人やモノを想い、考え、理解することができる良い機会になっていることを表す一幕でした。

「学校」を深堀りする

続いて、磯木さんが生徒に投げかけたのは、この質問。これらをひとつづつ考えていきます。

■教育とは?良い教育とは?
■先生がいなかったら生徒はどうなる?
■そもそも学校は必要?もし無かったら?

難しい質問です。

ある班から聞こえてきた、「そもそも学校は必要?もし無かったら?」という質問に対する回答は、「立派な大人になるため」、「最低限の教育を受けるため」。

この回答から、生徒たちが学校は「立派な大人」を作るための場所、「最低限の教育」が受けられる場所という認識を持っていることがわかります。でも、学校を出た人がみんな「立派な大人」になっているとはいい難いですし、学校でなくても通信講座等で「最低限の教育」を受けることができます。

普通に考えればそうかもしれないけど、別の切り口で考えたとき、見方を変えたときに、人やモノがより見えてくる。理解が深まる。

常識にとらわれずに柔軟な発想で質問づくりができるように、生徒たちは今後も質問づくりの練習を重ねていきます!

次回の授業では、実際の取材相手である、いすみ市で働く人(ゲスト)についての質問づくりの練習をしていきます。

テキスト:椎葉康祐

授業③それは、どんな「問い」から作られた?

〈前回のおさらい〉

前回の授業では、5~6人のグループごとに、実際に「問い」を考える練習を行いました。

・班の中で2人がyesと答える「問い」を考える
・学年の中で5人がyesと答える「問い」を考える
・机の上のものについての疑問を「問い」にする

というお題のもと、各人が「問い」を考えていきました。

例えば、机の上に置かれた「時計」について、「そもそもなぜ時計が存在するのか」といった、哲学的な深い問いを作っている生徒がいました。

生徒がつくる「問い」には、大人をハッとさせるものがたくさんあって、大変興味深いです。

「それがどんな問いから作られたか」を考える

今回の「問い」づくりのテーマは、こちら。

「それがどんな問いから作られたか」

前回のように、「そのものについての質問」をつくるのは簡単です。なぜなら、質問を考える自分自身が、そのものを使っている立場(消費者)だからです。

例えば、「時計」がお題だったら、「なぜ長い針と短い針があるのか」「なぜ時計は丸型が多いのか」など、「時計」そのものについての質問を、消費者の立場でたくさんあげていけばいいのです。

しかし、「それがどんな問いから作られたか」を考える場合は、それを「作っている」人(生産者)の立場で問いを考える必要があります。

でも我々は、特に中学生は、自分自身で何かものを作り出す、生産者の立場の人はほとんどいないので、生産者の視点に立って問いを考えるのはなかなか難しいです。

例えば、「窓」がお題のチームは、「窓」は「外の景色を見るためには?」という問いから生まれたと、「自転車の鍵」がお題のチームは、「自転車の鍵」は、「他人に盗まれないようにするためには?」という問いから生まれたと、それぞれ「問い」を考え出していました。

ただ、自分自身がそのものを作ったわけではないから、問いを考えるのに苦労しているように見えました。

これは、中学生だけではなく、「消費」に慣れている我々大人も、「生産者」の立場で問いを考えるのは苦労しそうです。

「問い」づくりを通じてわかる、そのものの「良さ」とそれがある「理由」

あるものに対して「問い」をつくるにあたって、そのものについてより多く考え、より多く感じる機会になります。

モノに対して「問い」を作ることは、今まで意識していなかった、そのものの「良さ」や、そのものが存在する「理由」にも気づける、と磯木さんは生徒に伝えていました。

「ティッシュ」がお題のチームは、「『すぐ汚れを拭くには?』という問いから生まれた」と考えましたが、ティッシュは汚れだけでなく、鼻をかむこともできます。やっぱり、ティッシュって便利で使いやすくて便利だね。というように。


今回の授業は、世の中にあふれているものには、何らかの「問い」からできている。それを、「問いづくり」を通じて感じ、そのものの「良さ」について再発見する機会になったようです。

次回の授業では、「テーマ」を深掘りする質問づくりを通じて、その「テーマ」をより深く知るということに取り組みます!

テキスト:椎葉康祐

授業②学年で、5人がyesと答える「問い」は?

〈前回のおさらい〉

前回の授業では、いすみ市で働く人たちの仕事を取材して作り上げる「房総すごい人図鑑」についての概要が説明されました。

また、

・「食べ物を長持ちさせるには?」という問いからできた「冷蔵庫」
・「遠くまで速く楽に行くには?」という問いからできた「車」
・「遠くの人と話すには?」という問いからできた「電話」…

といったように、身の回りのものことは「なぜ?」「どのように?」といった「問い」からできているということについて確認しました。

磯木さんは、「房総すごい人図鑑」を作り上げていく過程では、この「問い」づくりが非常に重要だということを繰り返し話していました。

今回の授業は、「問い」を作る練習!

今回は5~6人のグループに分かれて、実際に「問い」を考える練習を行います。

最初のお題はこちら。


・学年88人の中で5人がyesと答える「問い」を考える

「問い」を考えた都度、付箋にその問いを書き、机の上に貼り出していきます。グループでこのようなやり取りが聞こえてきました。

「うちの学校のバドミントン部って、たしか5人くらいじゃない?」
「学年で生徒会に入ってる人も5人くらいだよ!」
「学年に『中村』さん5人くらいいなかったっけ?」

「5人」という明確なターゲットがあることもあり、どのグループもそれぞれありとあらゆる知恵を絞って、学年5人がyesと答える「問い」づくりに夢中になっていました。

そして、実際にグループで考えた「問い」を発表し、答え合わせします。

「『中村』という苗字の人!」

・・・すると、ぴったり5人手を挙げました。場で拍手が巻き起こり、場の雰囲気が一気に盛り上がりました!
「問い」づくりが楽しい!そう思える瞬間を生徒みんなが共有できた一幕でした。

「問い」を考える楽しさ

続いて、お題はこちら。


・机の上に置かれたものについての疑問を「問い」にする

それぞれのグループの机の上に置かれたのは、釘、時計、ティッシュ、信号、窓、カメラ、ペットボトル、電池、カレンダー、蚊取り線香、リモコンなどといった、暮らしの身近にあるものです。


あるグループでは、机の上に置かれた「時計」について、
「なぜアラームがあるのか」という、時計の機能に対する「問い」から、「そもそもなぜ『時間』があるのか」という、「時計」自体ではなく『時間』という概念にまで派生した「問い」までさまざま。

「5W1H」、そして「そもそも・・・」を意識しながら、柔軟な発想で「問い」をたくさん生み出していました。

「問い」を「自分で」考える難しさ?

グループワークを行っている様子を観察して難しそうに感じたのは、「『問い』を考える時は、他の人と相談しないで自分で考えること」という、磯木さんが提示したルール。

「問い」考えるこのワークは、国語や数学のような一般的な授業とは違い、「ひとつの答え」を求めるものではありません。生徒たちが考えた「問い」に正解、不正解は無く、すべてが「正解」なのです。

しかしながら、普段の授業で「一つの答え」を考えることに慣れている生徒たちは、自分が考えた「問い」について、

「大丈夫かな?おかしいかな?」

と不安になったり、そもそも「問い」が思いつかなかったりして、グループの人に相談してしまうケースが多く見られました。

自分自身で考えた「問い」に「間違い」は存在しない!と、その「問い」に対して自信を持つことができれば、他の人に相談することも少なくなるでしょう。

「問い」作りの練習あるのみ!
次回の授業でも、「問い」を考える練習は続きます!

テキスト:椎葉康祐