都会を知り、田舎で働くことの楽しさ~有限会社 松本家具製作所 松本勝一さん 松本香純さん

松本勝一さん/松本香純さん

プロフィール

■松本勝一さん
千葉県いすみ市出身。長者小学校、岬中学校、茂原工業高校機械科(現 茂原樟陽高校)卒業後、父母が経営する有限会社松本家具製作所に入社。20才で同級生と結婚。現在、会社ではふたりの子どもとも一緒に働いている。

■松本香純さん
千葉県いすみ市出身。大学卒業後、アパレル会社に就職。1年後、祖父母のガンが発覚。父を手伝うために退職していすみにもどり、松本家具製作所に入社。2019年より『M-KAGU』店長。

【有限会社 松本家具製作所】
1975年いすみ市にて創業。住宅向けのオーダー家具やキッチンの設計、製造、取り付けまで行う、全国的にも数少ないオーダーメイド家具製作会社。主に東京や神奈川のデザイナー物件からの注文が多い。毎年子ども向けの木工教室も開催。

【カフェ『M-KAGU』】
2019年7月、長者商店街にオープンした、カフェ・雑貨・リフォーム相談のお店。イタリアンと和食が得意なシェフがランチを作る。お店に来る人の楽しみが増えるよう、定期的に講師を呼んでワークショップやイベントを開催。

<インタビュー>

難しい家具を作り、形になったときの喜び

―家具屋ってどんな仕事ですか?

勝一:実は学校のロッカーも作ってるんですよ。この岬中学校はちょっと作れなかったんですけど、今国吉中学校と国吉小学校の方の学校家具は松本家具で作っています。また、家庭のキッチンとかも作っています。

―モノの値段はどうやって決めているんですか?

勝一:まず材料には高いものと安いものがあります。高い材料でデザインが凝ったものを作ると値段が高くなる。逆に、職人さんの制作時間がかからないほど、値段は安くなります。

―仕事場の雰囲気はどうですか?

勝一:今うちの会社は若い子がいっぱいいるので、明るく元気で活発な会社になっています。

―社員の中で面白い人はいますか?

勝一:ぼくかな。面白い子はいっぱいいますけど、ぼくに勝てる子はいないかな。

―どんな会社にしたいですか?

勝一:人がいっぱい集まって、また人が寄ってくるような会社にしたいですね。

―会社は何人でやっていますか?また、何歳が多いですか?

勝一:今は21人です。年齢は20代の子が多いですね。一番年寄りが僕です。

―この仕事を何年やっていますか?

勝一:31、32年目になります。高校卒業してすぐこの仕事に就きました。

―モノを作るときのこだわりはありますか?

勝一:丁寧に作ること。しっかりと愛情を込めて作っています。

― 一番苦労した家具はなんですか?

勝一:うちの家具屋はどこの会社もやりたがらない難しい家具を作るので、どれとは言いにくいです。今やっている家具も全て大変な家具になっています。

―どんな家具を作っている時が楽しいですか?

勝一:やっぱり難しい家具を作っている時が一番楽しいですね。形になったときの喜びが本当に、すごく楽しいです。

―普段はどこで働いていますか?

勝一:普段は三門駅のすぐ近くに工場を持っていて、その作った家具を東京都、神奈川県や埼玉県に納めています。結構芸能人のお家の家具も作らせてもらっています。

―どんな目的で家具屋になったんですか?

勝一:父と母が四国からこのいすみ市に来て家具屋を創業して、その背中を見てきたのでその跡を継いで家具屋になりました。

―社長になって大変だったことは?

勝一:いっぱいあるんだけど。仕事がなかった時が一時期あったので、その時はちょっと大変でしたね。

―働き始めてから振り返って大変だったことは?

勝一:高校を卒業してすぐの頃、寝る暇もなく一生懸命働いていた時がありました、その時が大変でしたね。

―今までどんな家具を作りましたか。その中でも何が人気ですか?

勝一:「オーダーキッチン」って言って、世界に1つしかない物をオーダーで作っています。それがすごい楽しいですね。

―なぜ都会からの注文が多いんですか?

勝一:うちみたいな仕事の会社が少ないことと、人数を抱えている会社がないので、今やっぱり仕事依頼が多いですね。

―都会の人は何を注文することが多いですか?

勝一:やっぱりこだわりのあるおしゃれな家具をオーダーしています。

―会社は楽しいですか?

勝一:めちゃめちゃ楽しいです。

―仕事の仲間とうまく関わっていく中で大切なことはなんですか?

勝一:意見を聞いてあげて、それをちゃんと返してあげる。そして、また失敗したところで挫けずに、しっかり見守ってやり直す、そういうところかな。

―何故長者町に家を建てたんですか?

勝一:あれはですね、僕の父親と母親が建てた家なんです。僕と地元の工務店がチームを組んでその家を建てたんですよ。

―もし今の仕事ができなくなったらどうしますか?

勝一:どうしようかね。でも自分で商売はしたいかな。

―仕事をしていて嬉しい時はどんな時ですか?

勝一:お客様に喜んでもらえるときかな。こんな素敵な家具を作ってくれてありがとうございますと言われると一番嬉しいですね。

―社員が増えて楽になったことはなんですか?

勝一:自分が仕事をやらなくなるわけじゃないけど、自分がやる分野が少しずつ減ってきて、みんなが自分でできるようになった時が一番楽になりましたね。

―これから挑戦してみたいことはなんですか?

勝一:今、長者町にカフェ『M-KAGU』をオープンしたんだけど、もっと素敵でおしゃれな建物をこのいすみ市に建てたいというのが僕の夢ですね。

―元々、今の仕事に興味を持ったきっかけはなんですか?

勝一:やはり父母がこの仕事をやっていて、自分がモノを作ることが大好きだったので。それで本当に好きになりました。

―木工教室ではどんなことをしていますか?

勝一:掛け時計をオリジナルで作ったり、椅子を組み立てて自分たちで金槌を使ったり、いろんな道具を使って作ることを教える教室をやっています。

―家族で働いていて喧嘩はしないんですか?

勝一:毎日喧嘩します。僕が怒られています。

―自分の子どもと一緒に働けてどう思いますか?

勝一:娘もいるし息子もいるんですけど、二人が背負ってくれてるから昔苦労したけど今やっと楽になって幸せを感じています。

―仕事をしている中で危ないと思ったことはありますか?

勝一:カッターやノコギリなどを使う本当に危険のある仕事なので、安全に気をつけています。

―他の会社の家具ですごいと思ったものはありますか?

勝一:都会に行くと見るものが違いますね。お洒落で高級なものがいっぱいあって、僕もそういうものを見ると、負けないものをつくらないといけないなと思います。質問の答えになっているかわかりませんが、高い意識をもっていろんなものを見る、ということが大事だと思います。

―作った家具は自分で使うんですか?

勝一:自分も家具屋をやっている以上は、自分の家の家具は全部自分で作って使っています。僕はいすみ市で生まれて、いすみ市で仕事をしています。仕事を依頼されているのは東京とか神奈川なんだけど、ここで家具を作って東京に行く。都会を見ながら田舎で暮らすという生き方をしています。

今ここにいる一年生たちが大人になった時に、都会に出ることもあるだろうけれど、このいすみ市をずっと故郷だと思って盛り上げてほしい。将来いすみで仕事をするとか、いすみから通うとか、そんなことを少しでも考えてもらえたら嬉しいなと思います。

都会に行って地元の良さを知った。いすみに戻ることに迷いは無かった。

―香純さんへ質問です。仕事は好きですか?

香純:はい、好きです。

―仕事が好きと思うのはどんな時ですか?

香純:接客業でお客さんがすごく喜んでくれたりとか、帰り際にありがとう、また来るねって言ってくれるととても嬉しくて、楽しいです。

―カフェを作る時は、どんな気持ちでしたか?

香純:カフェを作る時は、どんなカフェになるかなって想像しながら、父親に内装を作ってもらいました。もともと本屋さんだった場所なんですけど、出来上がったときはこんなに変わるんだってワクワクしました。

―お店の名前『M-KAGU』の由来はなんですか?

香純:松本家具製作所のロゴをそのまま使ったんですけど。『M-KAGU』の意味はなんだろう…。

勝一:最初は『なんとかカフェ』ってしようとしたんだけど『M-KAGU』にしちゃったの。カフェよりも家具の方がインパクトあるかなと思って。会社の宣伝もしたかったので、『M-KAGU』にしました。

―お店の中で工夫したことはなんですか?

香純:こだわりのあるオーダー家具の会社が作っているカフェなので、1つ1つこだわっています。東京へ展示会に行ったりとか、この辺にないモノを置いて驚きのあるようなお店にしたいなと思いました。

―今後どんなお店にしていきたいですか?

香純:いろんなワークショップをやったり、人が集まりやすいお店にしたいなと思っています。中学生がよく来てくれて、そこでゲームしたりとか。多分Wi-Fiがあるからかな。たまには勉強に使って欲しいなっていうのはありますけど、でもゲームしながらみんなと和気あいあいしてる姿が私は嬉しく思っています。また、中学生だけじゃなく、大人や年配の方が集まっていろんな交流が持てるような、地域を繋げるお店にしたいです。

―ごはんはイタリアンと和食、どちらが評判がいいですか?

香純:そうだなあ、どちらかというとイタリアンの方が人気ですね。あまりこの辺で食べられないということもあって。ただ、年配の方になじみやすい食べ物も人気があります。逆に質問していいですか?イタリアンと和食、どっちの方が好きですか?

(生徒)和食です。

―イタリアンの中で一番評判がいい料理はなんですか?

香純:パスタが一番人気がありますね。

―今後どんなジャンルの料理を作っていきたいですか?

香純:シェフはもともとイタリアンをやっていたので、イタリアンには力を入れつつ、いろんな料理を取り入れながら、この辺にはない料理をつくっていきたいと思います。

―営業や接客をするとき意識していることはなんですか?

香純:お客様に気持ちよく帰っていただけるにはどういうことをしたらいいか、どういう気配りをしたらいいか、ということを常に意識しています。

―『M-KAGU』でイベントを開いていると聞いたのですが、どんなイベントを行いたいですか?

香純:店内にテレビがついたことと、中学生がゲームをしに来てくれているので、ゲームイベントとか、子どもとか大人関係なく交流ながら出来ならいいなっていうことは考えています。

―お店の営業でどんなことが大変ですか?

香純:週替わりでランチメニューを変えているので、どんなメニューが良いか毎週シェフと一緒に悩んでいます。ちょっと大変ではありますけど、楽しくやっていますね。

―『M-KAGU』と普通のカフェの違いはなんですか?

香純:雑貨があったり、内装は全部うちの会社がやっているので、こんな家具ができるんだ、とかインテリアが好きな人が集まってもらってもいいし、お洒落な人が集まってくれたら嬉しいです。普通のカフェと違うところは、いろんなイベントができるのも違うところかなと思います。

―家具はどのようなものが売れますか?

香純:オーダーキッチンがすごく多いかなと思います。

―今お店を営業していて悩んでいることはありますか?

香純:私が大学の時にバイトしていたところでは、お客様が来ないと外に出て歩いている人に向けて呼び込みをしたりしていました。でも、田舎だとやっぱり歩いている人が少ないのでお客様が来るのを待たないといけないですよね。お店の宣伝方法は都会と田舎で違っていて、その辺を今試行錯誤しています。

―家具を買いに来る人と、カフェを利用する人と、両方を利用する人、どれが多いですか?

香純:今はカフェを利用する人が多いかな。カフェを利用しに来て、初めて松本家具のことを知ってくれる方も多いです。

―カフェ以外の仕事だったら、どんな仕事に就きたいですか?

香純:逆に質問していいですか?今の中学生って将来何になりたいんですか?

―水族館の飼育員です。
―子どもに関われる仕事をしたいです。
―人を笑顔にさせるような仕事をしたいです。
―理学療法士です。
―電気系の仕事に就きたいです。
―なんでもいいから職業に就きたいです。

香純:そうなんですね。実は私は今の会社に入る前にいろんなことを経験してから両親がやってきた仕事を手伝いたいなと思っていたんです。でも会社に入ってからもいろんな経験をすることができました。例えば、社員旅行に行くとなったら、自分は将来ツアーコンダクターになりたいと思っています。旅行のプランを考えたりできますよね。カフェにいながらもいろんな仕事ができるので、何になりたいかって言われたらちょっと決められないです。

―仕事が終わって帰りに同僚と飲みにいきますか?

香純:同僚というよりは、同級生と毎週のように飲み明かしています。

―都会からこっちに戻ってくるのに、迷いはなかったんですか?

香純:なかったです。いすみにいる時はすごく都会に憧れていて、都会に行って地元の良さを知って、早く戻りたいなという気持ちがあったので、迷いはありませんでした。

―お店を開くのにいくらかかったのですか?

香純:それは会社の財務省しかわからないのでちょっとお答えすることができません(笑)

―お客様は1日に何人来るのですか?

香純:だいたい20〜30人が平均的です。

― 一日にいくら稼ぐんですか?

香純:みんなが想像しているよりは全然低いと思います。どのくらいだと思いますか?

―だいたい10万くらいだと思います。

香純:お〜。それより全然低いです(笑)

―先ほど芸能人にもオーダー家具の仕事を頼まれたと言いましたが、誰に頼まれたんですか?

勝一:中学生が一番知っている人というと、〇〇さんの自宅をやらさせてもらいました。あとは〇〇さんとか〇〇さんとか。

―店内にはどんな家具がありますか?

勝一:お店にはうちで作った家具ってあまり置いてないんです。うちは頼まれた物を作る会社なので、お店には僕がおしゃれだと思って仕入れた物を飾っているくらいですね。

―どんなイタリア料理がありますか?

香純:今『M-KAGU』で出しているのはパスタだけですけど、シェフがこれからソーセージを作ってメニューに出す予定です。

―シェフはどういう人ですか?

香純:実は高校の同級生で仲が良かった男の子なんです。もともと都会でイタリアンのシェフをやっていて、田舎に戻って来たいという話があって、私もその頃シェフの募集をしていたので運良く一緒に働くことができました。今は和気藹々と楽しく、仲良くやっています。

― 一番悲しいときはどんな時ですか?

香純:味とかインテリアにもみんな好みがあったりするので仕方ないですが、「私、これ嫌い」と言われると悲しくなります。

―お店を開くのは何時から何時までやっていますか?

香純:お店は11時から18時までやっています。ぜひ遊びに来てください。
最後に私から皆さんへ質問です。お父さんやお母さんがどんな仕事をしているか、わかる人はどれくらいいますか?(生徒おおむね挙手)
だいたいわかっているんですね。私は親のもとで仕事をしているんですけど、一緒に仕事ができるって、すごい親孝行でもあります。ぜひ両親の仕事に興味を持ってもらって、将来一緒に仕事をして、いい地域を作ってください。

(インタビュー:2019年度いすみ市立岬中学校1年生)

/////////////////////////////////////////////
房総メディアエデュケーションプロジェクトは、中学高校で、「問い」を起点に多様な視点を育む知的冒険授業をおこなうプロジェクトです。
2017年度より、生徒一人ひとりを主人公にする、教育を核にした地方創生のための新しいカリキュラムとして有志数名で取り組んでいます。
元々すべて自己資金で始めた活動ですが、地域にお金を回す事で当活動を継続できたらと思い、地域の方々にご協力頂き、「返礼品つき寄付金支援サイト」をつくりました。返礼品はすべて房総のとっておきの品ばかりです。どうぞご支援ご協力頂ければ幸いです。
https://boso-sugoihito.shop-pro.jp/
/////////////////////////////////////////////