障がい者も輝く社会を~NPO法人AlonAlon 理事長 那部智史さん

那部智史さん

プロフィール

千葉県いすみ市岬町在住。子どもが重度の知的障がいを持って生まれてきたことをきっかけに、親としてせめてお金の不安だけでもなんとかしようと、29歳のときに東京でIT企業を設立。その後、いすみ市にて不動産投資業を行う。障がいを持っている人たちが少しでも住み良い社会ができるような手助けがしたいという想いから、NPO法人AlonAlonを設立。

【NPO法人AlonAlon /A&A株式会社】

千葉県富津市に日本で唯一の重度障がい者が働く胡蝶蘭ハウス「Alon Alonオーキッドガーデン」を開設。60工程に及ぶ胡蝶蘭の作業をサポートするAIを導入。障がいを持つ人も仕事ができる栽培施設にした。また、A&A株式会社では、雇用をつくる貸農園事業も行っている。

<インタビュー>

障がい者が育てる胡蝶蘭



―なぜアロンアロンオーキッドガーデンという名前になったんですか?

まず、「アロンアロン」とは、インドネシア語で「ゆっくりゆっくり」という意味なんです。ここは、ハンディキャップのある人たちの仕事場ですので、急かして仕事を進めるのではなく、みんなでゆっくりゆっくり進めましょうという意味合いを込めました。
オーキッドというのはお花の蘭のことです。そのお花を作っている場所の名前として、お花畑のイメージがあったので「ガーデン」にしました。

―NPO法人アロンアロンはなにをしている会社ですか?

会社で働くことが難しい障がいを持っている人が世の中にはたくさんいます。そんな人でもやっぱり「社会に参加したい」とか「経済的に自立したい」「お金を稼ぎたい」って思っている人がたくさんいるんですよね。会社で働くことが難しい人たちに対して、胡蝶蘭を育ててそれを販売した利益から、みんなでお給料をもらい、経済的な自立をしましょうということで運営しているNPO法人です。

―貸農園事業とはどんなものですか?

ちょっと話が難しくなりますがいいですか。会社に勤めることが難しいと思われている障がいを持っている人たちも、胡蝶蘭をずっと一生懸命に半年、一年と育てていると、胡蝶蘭の栽培に関しては能力が上がっていきます。

そして、世の中には胡蝶蘭を祝い花として大量に買っている会社がたくさんあります。皆さんが知っているような大きな会社、有名な会社も年間に4千万円とか5千万円分のお花を買っているんです。それは、お取引している会社の社長さんが交代したり、事務所が移転したり、新しい会社ができた時に「おめでとうございます」という意味で胡蝶蘭を買って贈るんですね。そんな会社は社会貢献したいという気持ちがあって、お花屋さんで買うよりも障がいを持っている人たちのお花を買いたいよ、という気持ちになってきているんです。

そこで、そういった大きな会社から栽培技術のある障がいを持っている人に向けて「社員になりませんか?」というオファーがくるんです。つまり、今までのように胡蝶蘭を買い続けるのではなく、栽培ができる人を自分の会社で雇って、胡蝶蘭を自分たちでつくろうという方向性にだんだん向かってきました。

ただ、そういった大きい会社でも胡蝶蘭を作る温室は持っていないんですね。そこで、うちの会社は胡蝶蘭を栽培する温室を貸して、お金をいただくという事業を展開しています。アロンアロンで働く障がいを持った人たちが評価され、企業の社員となり、そこで自分たちのお花を作っている、そんな流れになります。

―どうして胡蝶蘭にしたんですか?

私は今50歳なんですが、40歳までは東京の恵比寿というところでIT企業をやっていました。会社を作った29歳の時は社員が3人しかいなかったんですが、10年後には150人くらいの会社になりました。そうなるとオフィスをどんどん大きくしていかなくちゃいけないんですね。何回も引っ越しました。そうすると、取引をしてくれている会社さんからお祝いがバンバンくるんです。移転したオフィスに足の踏み場がないくらいの胡蝶蘭が届くんですよ。当然、うちの会社も頂いた会社の事務所の移転や社長の交代とか、お祝いには胡蝶蘭を送ります。
その時にふと思いました。胡蝶蘭ってお祝いのお花なので、ディスカウントして買って贈るとか野暮なことはあまりしないですよね。みんな定価で買うんです。なおかつ、一鉢3万円とか5万円とかけっこう高い値段なんですね。こういうものを障がいを持っている人たちに作ってもらったら素敵な世の中になるんじゃないかなと思って。それで胡蝶蘭にしました。

―胡蝶蘭は一年でどのくらい栽培していますか?

去年までは年間1万本作っていました。来年からは年間3万本作る予定です。

―胡蝶蘭を作るのは大変ですか?

難しいといえば難しいですが、テクノロジーの進化でだんだん簡単になってきています。例えば、昔だったら胡蝶蘭の温度管理、それから湿度管理、それから光の管理。そういうものは全て人の手で、感覚で判断しながら暖房つけたり、冷房つけたり、窓を開けたり、カーテンを閉めたりしていました。

そうやって人の感覚で環境設定をしながら胡蝶蘭を育てていたんですけど、今はテクノロジーがどんどん発達してきています。うちで今、胡蝶蘭を栽培している温室はセンサーが30個ついています。どんなセンサーかというと、光のセンサー、温度のセンサー、湿度のセンサー、それからCO2。植物なので光合成をするので、CO2濃度も大事です。そういったセンサーがあちこちについていて、胡蝶蘭の栽培に最適な環境を温室自ら作ってくれている、ということをやっています。環境設定という一番大きな難関は、もはや今は機械がやってくれる時代になりました。

あとは実際の水やりだったり、形成、形を作っていくとかですね。あとはお花の向きを直していくとか動的な作業が残されています。そういう意味で、以前に比べると遥かに作りやすくなりましたね。

―ガーデンで開発している人工知能には、どれくらいのお金がかかっていますか?

今、人工知能、AIっていう話が出ましたけど、I君はどのくらいのことをAIがやるって思っています?AIってなにができると思います?(生徒:「何でもできる」。)

今の人工知能でできることって何かというと、たくさんの膨大な情報を記憶して、それを的確な時に的確に出すことなんです。人間の作業の補助ぐらいまでしかできないんですね。考えて物事を判断するような人工知能は、恐らく近い将来出てくると思います。テレビとかで見る、チェスで人間を打ち負かしちゃう、なんていうのがあるじゃないですか。あれも膨大な駒を動かす選択肢の中で、最適なものを選んでいるだけなんですよね。なのでなにかを生み出すような力はないんです。

我々が今開発をしようとしている人工知能は恐らく一億円くらいでできるんじゃないですか。ただ、それは最初に作り出すときの開発コストであって、量産されていけばどんどん安くなっていくと思います。今、I君が持っているものも昔はすごい高いものがいっぱいあったと思うんです。恐らく、携帯電話でもパソコンでも、どんどん大量生産することによって安くなっていくんです。

―胡蝶蘭の花言葉を知っていますか?

「幸せが飛んできます」っていう花言葉ですね。

―なぜ胡蝶蘭の値段はバラバラなんですか?

たとえば、お祝いで使われる胡蝶蘭は1本1万円、もしくはちょっと小さいもので3本で2万円で売られているものですね。ただ、小さい胡蝶蘭だったり、花の数が少ない胡蝶蘭だと値段はやはり下がってきます。

―胡蝶蘭以外の花を育てたいと思いますか?

胡蝶蘭は一番最初に手掛けたお花なんですけど、別の観葉植物も販売しています。今は販売だけですが、ゆくゆくは九州の暖かいところで育てたいなと思っています。

―どういう会社から注文がきていますか?

皆さんの知っているような、大きい会社さんからきていますね。証券会社とか銀行。おそらく皆さんの近所にあるような銀行さんからも注文いただいています。金融系の会社さんや製薬会社さんもですね。業種は多岐に渡りますが、特に芸能関係の会社さんは注文の数が多いですね。

―注文された中で珍しい場所ってありましたか?

届ける場所のことですか?日本全国どこでも届けますので、一番遠くだとどこだろうな。沖縄からも注文がありましたし、北海道だと旭川くらいまでは届けてますね。

―他の企業の人と契約したいと思っていますか?

今、アロンアロンはいろんな会社と合弁会社というものを作っています。現状1つあるのは、さっき出てきた貸農園事業をやっている会社。これはNPO法人でやっているのではなく、エーアンドエーという株式会社でやっています。ここはアロンアロンともう1つ別の会社が一緒にお金を出しあって作った株式会社ですね。このような事業会社と言われるものをこれからどんどん作っていこうと考えています。

―従業員の方は何人いますか?

農園と東京、それから千葉のいすみ市に合計して30名の従業員がいます。

―働く人の生活態度を重視しているのはなぜですか?

アロンアロンオーキッドガーデンは、障がいを持っている人たちの最後の仕事場ではなく「就職をするための技術を磨く学校」みたいな位置づけで考えています。そうなると、やはり仕事だけじゃなくて日常生活のルールだったり、そういうものもしっかりと学んでもらって企業に就職してもらいたいので生活態度を重視しています。

―生活態度を重視している人に、高い評価を与えるのはなぜですか?

例えば仕事をする中で、一人で仕事を完結することもあるけれど、やはり仲間と一緒に協力しながら1つのものを作り上げるというのが仕事の一般的なスタイルなんですね。
例えば胡蝶蘭の栽培と考えると、苗から出荷して胡蝶蘭の鉢になるまでの間に大体60工程くらいあって、みんながそれぞれ役割分担をして仕事をしています。他の分野の仕事と協力しながら、補完し合いながら1つのものを作り上げるということをしないといけないんです。
そうすると、やはり仲間に対する協力とか、連携とか、そういうものがすごく大事になってきます。これはおそらくどんな会社に入ってもそうでしょう。技術を持っているだけだと、評価はなかなか難しいんですが、仲間との助け合いができるという事はそれ以上の評価になっていくんじゃないかと思っています。

 

―会社を作る前は何をしていたんですか?

私は29歳の時までサラリーマン、会社に勤めていました。29歳の時に1つ目の会社を作ったんですね。さっき言ったIT企業、インターネットの会社です。それを10年間経営して、その後に会社を売却しました。売却したお金でいすみ市にアパートを作ったり、お店を作ったり、駐車場を作ったりして大家さんになったんです。
その後、NPO法人アロンアロンを作って千葉県富津市に胡蝶蘭の温室を作りました。会社を作るまではサラリーマンでしたけども、そのあとは株式会社を作ってみたり、大家さんになってみたり、またはNPOの代表をやってみたりということをやって、10年ごとくらいに変わってますね。

―何故IT分野で会社を作ろうとしたのですか?

おそらく、その頃ITって一番大きくなっていく分野だったと思います。今は皆さんスマホをやったり、インターネットって当たり前のようにやっているじゃないですか。皆さんやってるよね、きっと。ゲームやったりしているよね?
そういった「あれ?IT産業ってちょっと大きくなるんじゃないの?」っていう雰囲気が出始めていた頃というのが西暦2000年の前くらいですね。楽天とかライブドアとかインターネットの会社がどんどん出てきた時期でした。その時代に乗るような形で私も会社を作ったということですね。

―29歳でIT分野に会社を作り、不安はなかったのですか?

不安はどこでもあると思うんですね。会社に勤めていてもリストラされる不安はあるだろうし、何をやるにしても絶対「こうなっちゃったらどうしよう」って不安はあります。でも、会社を作るとか、起業するということにはそれを上回るような期待感とかワクワク感があると私は思うんですね。

―いすみ市に来て良かった事はなんですか?

私の家から海が見えるんです。いつも見ていると、漁師さんが漁から帰ってくる船が港に入ってきたりとか。それまで東京にいたのでそういう広い目線というか風景っていうものをずっと見る機会が無かったんですね。風景もいいし、人もいいですね。
例えば漁師さんと仲良くなると、お魚がたくさん獲れたから持ってきたよ、なんてことがあります。東京だったら絶対ないですね、そんなこと。漁師さんだったら、獲った魚というのはある意味収入じゃないですか。ですから「たくさん獲ったからあげるよ」って、最初は意味がわからなかったんですよ。東京で、給料たくさんもらったから分けるよって人はあまりいないでしょう?「たくさん獲ったから分けるよ」っていうところに、すごく優しい人がここにはたくさんいるんだなって思いました。
農家さんもそうですね。「畑で採れたから、玄関の取手のところにかけておいたよ」って言って、置いていってくれるんですね。こんなのなかなか東京じゃ味わえない人の繋がりだなって感動しました。

―今後の目標はなんですか?

私がなんでこの仕事、活動をしているかというと、自分の息子が障がいを持って産まれて来たからなんです。それで、息子の目線で世の中を見てみると、やはりハンディキャップがある人や障がいのある人がなかなか生きづらい世の中だなということをすごく感じたんですね。それを少しでもフラットな、みんなと同じような環境で生活して人生を楽しんでいけるような社会がちょっとでもできるといいなと。そういうことを目標に活動しています。
その為に、最初は収入が必要なのかな?って思ったら、彼らが自立するための仕事を作ろうって考えます。またそれをやり続けるていって、こっちに問題があるんじゃないの?ってわかったらそこの問題を解決するような事業をしたいと考えています。話がバラバラになりましたが、目標としては障がいを持っている人たちが住み良い社会が少しでもできるような手助けができたらいいなと思っています。

―今までで1番忙しかったシーズンはいつですか?

事業を始める瞬間が1番忙しい時だったと思います。何かを始めようとする時っていろんなことを同時にやらなきゃいけない。
組織を作るとか、人を雇うとか、お金を集めます、とか。何をするにしても会社でもNPOでも最初に1番労力がかかるんじゃないかと思います。Sくんが人生で1番忙しかったのはいつですか?忙しかったことなかった?試験の時?やっぱり同時に何かいっぱいやらないといけない時って忙しいでしょう?そういうことだよね。

―胡蝶蘭はどういう時期にできますか?

胡蝶蘭は南国のお花です。時期はあまり関係ないんですね。出荷もいつでもできる体制を取っています。胡蝶蘭って見たことありますか?例えば、お店の開店とか、そういうところに並んでる所見たことないですか?ある?それって季節関係ないよね?胡蝶蘭は温室で育てるので四季に関係なく花は咲くんですが、生き物なので花を咲かせる技術があります。それは何かというと、一瞬温度を下げるんです。植物は「あれ?死んじゃうかも?」って思うと子孫を残そうと思って花を咲かせるんですね。ですからこの苗を咲かせようと思ったら一瞬温度を下げるんです。そうするといつでもできます。

(インタビュー:2019年度いすみ市立岬中学校1年生)

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房総メディアエデュケーションプロジェクトは、中学高校で、「問い」を起点に多様な視点を育む知的冒険授業をおこなうプロジェクトです。
2017年度より、生徒一人ひとりを主人公にする、教育を核にした地方創生のための新しいカリキュラムとして有志数名で取り組んでいます。
元々すべて自己資金で始めた活動ですが、地域にお金を回す事で当活動を継続できたらと思い、地域の方々にご協力頂き、「返礼品つき寄付金支援サイト」をつくりました。返礼品はすべて房総のとっておきの品ばかりです。どうぞご支援ご協力頂ければ幸いです。
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